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 讀売新聞日曜版(4月21日)のテレビ欄にちょっと面白い記事が載っていた。見出しは“池田秀一のシャア、「次郎ちゃん」からの脱出”。“機動戦士ガンダム”のシャア・アズナブル役池田秀一氏のインタビュー記事だ。氏は8歳の時に児童劇団に入り子役としてスタートし、ドラマ「次郎物語」(NHK)の主役、次郎役でお茶の間の人気者となり、何処に行っても「次郎ちゃん」と呼ばれる毎日だったそうだ。“ガンダム”の中でもシャアは魅力的なキャラクターであり、僕も興味をそそられた人物の一人だったので池田氏のインタビュー記事を引用して紹介することにした。
 ーーアニメーションの仕事に興味はなかった。洋画の吹き替えと違い、原音を聞かずに声をあてるアニメの声優の仕事は「自分には出来ない」と感じていた。だから「機動戦士ガンダム」のオーディションを勧められた時も乗り気でなかった。でも「後で飲もうと誘われてそれなら参加してもいいかとおもった」オーディションを終え、ふと作中のキャラクター表を見た時、仮面をかぶった青年将校の絵に呼ばれた気がした。他とはどこか違う空気を醸し出している。「この人はどんな人なんだろう。声をあててみたい」、今迄にない感情が沸き起こった。“シャア・アズナブル”との出会いである。次郎少年のイメージが強すぎ、似た役柄ばかりくる。シャアと出会ったのは「そろそろ“次郎ちゃん”から脱却したい」と思っていた頃だった。

 ーーその時はガンダムがアニメ史上に輝く作品となり、敵役のシャアも人気キャラクターになるとは想像もしていなかった。81年から公開された3部作の映画が大ヒット。イベントには1万人以上のファンが集まり、社会現象ともいえる人気を得た。シャア熱も沸騰し「認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを」「坊やだからさ」など数々の名ぜりふも生まれた。

 ーー34年も続くシャアとのつきあいは、親しい女性とのつきあいのようだ。嫌いになる時も飽きる時もある。でも30年も一緒にいれば愛は深まる。今は蜜月ですよ。在る時仲間と話しながら「当たり役とかタダでもやりたいほど面白い仕事に誰もが巡り合えるわけじゃない。その点、シャアと出会えたのは凄いことなんだなと気ずいた」。今は一生シャアを背負って行こうと思っている。そして、お台場に建てられたガンダム像についてどう思うかの問いに対して「うーん、ガンダムは僕の敵ですから、隣にシャア専用のザクも建ててもらわないとね」と不敵な笑いで結んでいた。

 富野監督はもちろん、制作スタッフ、僕たち脚本を担当したメンバーも池田氏のこの思いを知って光栄である。実は、シャア・アズナブルというキャラクターは、企画から作業スタート段階ではそれほど重要な存在ではなく、登場話数も少ない予定だった。それが、ストーリーが展開するにつれその存在の価値が高まっていったのだ。視聴者からの投書、要望があったわけではない。周知の通り、ガンダムはテレビ放送の期間では視聴率もふるわないうちに終了している。それなのにスタッフにとってもシャアの存在が大きく膨らんでいったのは何故だったのか。仮面をかぶった少年将校のキャラクターに不思議な魅力を感じた池田氏の強い思いが、知らぬうちに僕たちスタッフの気持ちにも影響を与えたのだろうか。その時は考えもしなかったが、今にして振り返ると映像の中でいきいきと行動するシャアの心に、池田氏の魂が乗り移ったかのようにも思える。

 僕が池田氏のインタビュー記事を読んでぜひこのコラムに引用したいと強く思った理由は、池田氏の執念を感じたからだと思う。僕たち脚本家が新番組の作業に入る時真っ先に考えるのは、登場するキャラクターをしっかり掴むことにある。それでないと展開するストーリーの中でなにを言わせたらいいか、セリフの一つも書けないからだ。そこで渡された企画書の意図と、設定されたキャラクターの絵から人物像を造形していく。ガンダムの人物キャラを構築したのは安彦氏である。それを基に僕たちはキャラクターを動かし、ドラマの進展につれより立体的な人物へと膨らませていく。一方で、一作ごとに仕上がった作品を見ながら話し方の特徴、声の質も僕たちの中に浸透させていく。つまり、当時は気づかなかったがシャアというキャラクターは池田氏の投影でもあったことになる。今この記事を読んではじめてそのことに気づいたことになる。このことはおそらく他の声優さんにもいえることだろう。今にして一つ大きな勉強をさせられた思いである。

 ガンダムの大きな魅力の一つには登場するキャラクター、特に子供たちの成長の軌跡を描いたことにある。スタートからラストまで同じ位置にいるのでなく悩み、苦しみ、怒り、予想を超える体験の中で、それぞれに成長していくのだ。アムロはもちろんカイ・シデンもブライト・ノアもフラウ・ボウも。池田氏の記事を見て、“坊や”に見えたアムロと冷静に見えて傷つきやすいシャアの成長した後の生きざまを見つめてみたい衝動にかられた。