meijido_logo2b.png

title_column_araki.png

0066

 ことば、言語とは何か。辞書によると「人間の表現活動のひとつで、音声(や文字)によって思想・意思や感情を表現したり伝達したりする行為。また、それに用いられる音声(や文字)」(新明解国語辞典)とある。意思や感情を伝える方法はほかにも絵画や音楽などあるが、言語はもっとも基本的なもので日常生活には無くてはならない具体的な手段であろう。何十年連れ添った夫婦でも、無二の親友であろうとも、言語(会話)無くしては何を考え、何に悩んでいるのかを相手に伝達することは不可能だから。
 小説にしろシナリオにしろ、モノを書く人間にとって言語がいかに難解で魔物のような存在であるか。セリフは言うに及ばず情景描写、心理描写、主義主張をいかに正確に伝えられるか。言語の選択に真っこうから挑戦を強いられるからだ。それは僕がシナリオ ライターという仕事についたことでさらに激しく頭の中で駆け巡りはじめた。ト書きひとつ、セリフひとつ書くたびに僕を悩ませるのも事実である。世界のそれぞれの国によってことばの表現方法に違いはあるが、言葉の持つ意味は社会ごとに定められている。中でも日本語は種類も多く、ボキャブラリー(語意)も多い。同音異語も半端ではない。

 ある時僕は、そうした難題と真っこうから四つに組む仕事を依頼された。〝インフェリウス惑星戦史外伝・コンディション グリーン〟である。テレビ作品でもビデオ作品でもない。CD用のドラマ・シナリオである。つまり映像は全く無く〝声と音〟だけの世界のドラマだ。ラジオの放送劇用台本と同じである。制作はビクター音楽産業、青二企画が制作協力に加わった。同企画といえば洋画の吹き替えやテレビアニメの世界で大活躍している声優さんたちの所属しているプロダクションである。僕は映像の無い世界を描き出すことへの一抹の不安と、一方で高まる冒険心に似たときめきを抱きながら、この仕事を受けることにした。

 作品の舞台はインフェリウス銀河。ギャザリア惑星のヴィンス皇帝が優秀な科学力と強力な兵力を持って、銀河内の三つの地球型惑星、惑星カル、惑星グラナド、そしてこのドラマの主舞台となる惑星エメラルドアースを同時に制圧しようとする大河ストーリーだ。全三部からなり、一部が平均40分前後だったと思う。スタッフは原案の伊豆一彦(音楽も担当)水口幸広、金巻兼一、プロデューサーの佐伯雅久、総監督山内重保の各氏。録音スタジオはキー・ストーン(青山)で行われた。

 登場人物(声、敬称略)は主役の中村大樹をはじめ塩沢兼人、神谷明、古谷徹、屋良有作、井上和彦、金内吉男、皆口裕子、引田有美、家弓家正、(ナレーターも)、銀河万丈、市川治、佐久間レイらそうそうたるメンバーが顔を揃え、まさに圧巻だった。僕はテレビアニメのアフレコ現場に同席したことは数えるほどしかないが、この作品では三部作ともスタートからラストまで参加させてもらった。一つには、セリフ回しで言いにくい点があった場合やもっとほかに適切な言葉がないかなど、その場で打ち合わせた上シナリオに直しを入れる必要もあったから。その人物になりきった声優さんたちの心情から生まれるセリフへの意見は、凄く説得力があり考えさせられ、勉強になった。

 とはいえ、この三部作の作業は正直予想以上に厳しかった。実写にしろアニメにしろ今まで映像を主体に作業してきた僕が、全く映像の無い世界で作業するのだ。聞く者にいかにふさわしいイメージを浮かべてもらwるか、まさに〝ことば〟と音による勝負といえる。それだけに、書き上げた時の壮快感がひとしお高まったことも確かだった。

 まずはキャラクターの映像が無いのだからセリフの中で名前を示さなければならない。それに場面の状況やシーンの展開など、ト書きやセリフが説明口調に成り易い。神経をスリ減らす作業だ。シナリオと違う決められた記号もある。参考までにあげるとセリフの頭に上、下、中と書くのは上手、下手などマイクの前に立つ位置を示す。SEは効果音、Mは音楽、ブリッジは場面転換のための短い音楽などなど。シーンの一部を紹介する。

□情報部前の廊下
S   E (下オフより下オン)足早に靴音が来て止まり、ノックの音
キ ー ス「(下)キース・ウインター少佐、入ります」
ギランの声「(上オフ)遅すぎる。入りたまえ」
S   E ドアを開け、入り、閉める
ギ ラ ン「(上)早速だが少佐、君は未だにショウは
      戦死しとらんと言い張ってるそうだな」
キ ー ス「(中より下)はい、その通りです」
ギ ラ ン「(上)寝ぼけるのもいい加減にしたらどうかね。ショウは戦死したんだ」
キ ー ス「(下)しかし、遺体を確認した訳ではないし、
      証拠のない戦死など・・・・」

       (中 略)

ギ ラ ン「(上)くどいツ 下がりたまえ 儂は忙しいんだ」
  M   短く衝撃的に入って、弱まり、代わって草笛の音がイン
S   E 小川の流れと焚き火の音の中で草笛が少し続く
フ ィ ル「(上)キース、気持ちは分かるが・・・怒らんでくれ、
      モヴィーディックの爆発の状況から判断して、おそらくショウは・・・」
キ ー ス「(下)それを言わないでくれフィル、私にも分かっている。
      分かっているが遺体を見てないことが、ひとつ割り切れないんだ」
S   E (中)草笛、プツンと止む
フ ィ ル「(上)ヤン・・・」
ヤ   ン「(中)私も、キースと同感だ・・・」

と、言う具合になる。
効果音や音楽の選択は専門の担当者があたる。