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 日活ロマンポルノ“春情夢”の完成後もアマチプロからの仕事依頼は続いた。同プロでは岡部俊夫をはじめ脇役陣の俳優を何人か抱えていた。故天地茂氏が主演する作品はもちろん、現代劇・時代劇に関わらず多くの作品に活躍している。そうした中で将来のスターを目指そうと若手俳優の育成をはかるべく力を注ぎはじめた第一作が、“春情夢”主演の真行寺孝子である。彼女はその後も何本かのロマンポルノに出演したが、同ジャンルの製作本数の減少と共に影を潜めていった。
 それと前後して、若手とはいえないがもう一人売り出しに力を入れていた俳優が目黒祐樹である。渋い往年の時代劇スター近衛十四郎の息子で、松方弘樹の弟だ。すでに俳優としてデビューしていて何本かの映画、テレビにも出演していた。が、押しも押されもしないスターとなっていた兄松方弘樹と対照的に、その存在は薄れはじめていたのだ。その理由は、演技力とか人間性ではなく、あまりにも兄と顔が似すぎていたことにある。芸能界では全く同じキャラクターは二人必要としない。一人で充分なのである。不運といえば言えるだろう。故天地茂氏と掘地プロデューサーは、その目黒祐樹に何とかして日の目をと力を入れることにした。

 僕が依頼されたのは目黒祐樹を主役とするテレビドラマの企画書だった。僕はいろいろ考えた。松方弘樹氏は得意とする時代劇はもちろん、現代劇も含めた幅広い役をこなすベテランだ。だから似すぎている顔を全くイメージさせない、独特のキャラクターを生み出さなくてはならない。まず考えられるのはコメディーのジャンルだが、僕には絶対と言えるほど無理な話しである。僕のテリトリーはシリアスものだから。シナリオライターといえど、人それぞれに書ける分野とそうでない分野がある。書くことも個性が存在価値を決める。俳優に限らず作家、音楽家、評論家など全てについて言えることだ。シリアスなドラマで松方弘樹と対照的、正反対のキャラクターを造り上げようと試行錯誤した。気弱でお人よし、剣の腕もたいしたことのない、目立たぬ存在の役人が堪忍袋の緒を切って怒りを爆発させるストーリー。平凡な庶民の駐在日誌など、数本の単発企画、シリーズ企画など作成した。掘地プロデューサー、目黒祐樹氏の賛同は得たものの、局のOKは得られず結果全てドラマ化は実現しなかった。その理由がどこにあったのかは聞かされていない。

 そんな折り、またハードスケジュールの仕事を依頼されることになった。劇場映画シナリオの直し作業である。それも日本の映画ではない。故天地茂氏とイタリアのアクションスター(名前は失念して思い出せない)が共演する作品だ。一本はイタリアのスターが主演で、もう一本を故天地氏が主演、都合二本製作する契約になっているという。シナリオは二本ともイタリアのライターが第一稿を書くことになっていた。その内の一本はすでに撮影も終了していて、僕もその作品を鑑賞した。依頼されたのは二本目、故天地氏が主演する方のシナリオの直しだった。

 イタリアのライターが書いた第一稿を翻訳したものを渡された。故天地氏は「面白くないし乗れない。自由に直して欲しい」とのこと。内容は日本から来たプロの殺し屋とイタリアの暗黒街のボスとの対決話だ。正直、アクションを主体にした構成で、マカロニウエスタンをブームにしたイタリアらしい作品だとは思った。直すには部分的な作業とはいかない。頭から全部(二百字詰め原稿用紙250〜300枚)書き直したっかた。といって与えられた時間はほとんど無い。僕は構成に二日間(自宅)、シナリオ執筆に二日間取り、新宿のホテルを用意して貰った。

 僕の直しのポイントは、主人公の生活感、人生観(ポリシー)を書き入れることだった。ために主人公の息子を新しく設定、父子関係と主人公の苦悩を伏線とした。二日間完徹で書き上げたシナリオは故天地氏に受け入れられた。翌日、自宅で小直しを終えた僕を岡部氏が車で迎えに来てくださり、故天地氏宅でアマチプロのスタッフ、俳優さん達と一緒の夕食に招待して貰い、故天地氏の喜ぶ笑顔に感動した。しかし、思わぬ訃報が飛び込んだのは、そらから余り日が経っていない時だった。故天地氏が主演するテレビ映画“名探偵明智小五郎”
(年四、五本の二時間枠シリーズ)の一本を書くことになり、第一稿を書き上げる直前のことである。くも膜下出血とのことだった。お酒も煙草もやられない方だったのに。息が止まる思いだった。僕が最も親しくさせて頂いた一人の俳優さんだった。今でも思い出新しく、心からご冥福をお祈り申しあげます。