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 “木曜ゴールデンドラマ”の企画が決定したのが、確か六月の中旬を過ぎていたと思う。八月中の放映を狙うには、撮影スケジュールを考慮に入れ、シナリオ化を急がなければならなかった。素材が実際の花火業界を舞台にしているため、シナリオを書くに当たってはもっと綿密な取材をしなければならない。花火製造に使う道具類、製作の工程、仕上がるまでの日数、恒例の花火コンクールの決まりについてなど、実際にこの目で見て、聞いて、作る体験こそ出来ないまでもかなり深く自分のものにするためだ。僕がその旨をプロデューサーに相談すると、長沢プロデューサーは快く承知し、栃木県にあるわりと大きな煙火店田熊火工品工場に交渉、シーズンを前に忙しい中取材の許可を取ってくれた。
 六月も終わりに近いその日、僕と長沢プロデユーサー、演出の小泉氏の三人で現地の煙火店を訪れた。大量生産する玩具用花火と違い、夜空を彩る“打ち上げ花火”用の尺玉は全て手作りである。”星”と呼ばれる火薬の小玉(アメ玉位)作りから中が空洞の半球(紙製)の中に一つひとつ“星”を詰め込む作業、最後に寸分なく“星”を詰め込んだ二つの半球をピタリ貼り合わせるまでの作業を目の当たりに見せられ、プロの巧みな技と気迫を込めた意気込みに感動した。火薬の混ぜ方、星の大きさ、並べ方の組み合わせにより、開花した時の色、形が違うこと。それを頭の中でイメージし、デザイン化する。毎年の全国コンクールに新作を発表する生き甲斐と聞かされた。この、職人魂とも言える生きざまに、僕はドラマのテーマを再確認出来たと思った。

 ストーリーは、一言でいうなら家族愛を軸にした職人気質である。シナリオを書く場合大きく分けて二つのケースがある。主な役の俳優が初めから決まっている場合(時代劇や刑事ものなど一話読み切りのシリーズものに多い)とそうでない場合。決まっていない場合は完成したシナリオに適したキャラクターの俳優を監督(演出)とプロデューサーが選出する。今回の場合は企画書のサンプル・ストーリーから主な役の候補俳優が決まっていた。となるとそれらの俳優のキャラクターに合わせた人物像をシナリオで描くことになるのだが、この作品に限ってその思いは全く必要なかった。僕がサンプル・ストーリーを作る時にイメージしていた俳優さんだったからである。主役の朴訥で頑固な花火職人に芦屋雁之助、その妻が中村玉緒、娘安代に麻生祐未、その兄英二に江藤潤、安代の恋人に広岡瞬という顔ぶれだ。ただ一人麻生祐未だけがまだデビューしたしたばかりでドラマ初出演、僕も知らない女優さんだったので僕の中でイメージしている明るい娘のキャラクターを自由に書かせてもらった。

 ドラマは前半夫を気使う妻が思わぬ火薬の事故で他界してから六年に渡る主人公と娘、息子、恋人のお互いを思いながらのチグハグな絡み。妻の七回忌と重なる年の全国花火コンクールをクライマックスに、人と人との心の機微を追った。交通事故で大手術を受けた娘を誰よりも気使いながらも、素直に病室に顔を見せられない主人公。その彼の真意を表すのに思いついたエピソードが、生まれて初めての料理で娘の大好きなみそ汁を作り、病院の看護師に名も言わず託すシーン。そしてクライマックスでは、妻の七回忌に合わせ、妻が生前身につけていた浴衣地を細長く切り、和紙と交互にコンクール用の尺玉に貼るシーン(現実にはやらない方法)を思いつき、手前ミソになるが大満足した。いろいろな作品を手がけてきた僕の中で、もっとも思い入れが深く今でも鮮明に記憶している作品の一つと言える。タイトルは「父と娘は入れて欲しい」とのプロデューサーの注文を聞き入れ“父と娘・七色の絆”として決定した。

 この作品には一つの後日談画有る。全国花火コンクールのシーンを撮影するために実際の花火大会会場にロケした演出の小泉氏が、現場の凄まじい轟音の中で右耳に聴覚障害を起こされてしまったこと。以来半年ほど不自由だったそうだ。そして一つ残念だったことは、このシーンを撮影するための花火大会が八月に開催されたことから、八月中のの放映が当然のことながら実現しなかったことだ。結果、確か十月の放映となり、時期はずれの影響も手伝ってか、視聴率が15パーセント弱だったことである。