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 ある時、テレビ映画製作会社ユニオン映画(株)のプロデューサー中尾孝道、長沢克明両氏から企画を依頼された。その頃毎週木曜日の午後九時から日本テレビで“木曜ゴールデンドラマ”(二時間枠単発ドラマ)という番組が放送されていた。平均的に高い視聴率でかなりの長寿番組である。大本の製作会社は讀売テレビ放送で、一本でも多くその枠を確保したいと各プロダクションが競って企画を持ち込んでいた。ユニオン映画もその中の一社である。
 原作を使わないオリジナル作品にしたいとの意向に、僕は内心意気込んだ。オリジナルということは、勿論企画が通ればの話だが僕が書きたい作品を書くことができる。僕は、何時の日か日の目を見る時が来るのを期待してコツコツ溜め込んでいた企画用の資料を取り出して、一つ一つ検討を開始した。と言ってもあまり時間は無い。できれば今まであまり取り上げられたことの無い素材をドラマ化したい。そんな思いで選んでいた僕の目に止まったのは花火師の世界の資料だった。僕は以前から日ごろあまり日の目を見ない“職人”の世界をドラマ化したいとの思いがあり、いろいろな職業の職人の生活に関する資料を機会あるごとに集めていた。その中の一つである。

 花火師という職業が登場するドラマはほとんど時代劇である。僕の知る限り現代劇では見た記憶がない。しかも、時代劇に登場するパターンはだいたい決まっている。幕府に密かに陰謀を起こそうと企む大名とかお家を潰された残党が花火職人を誘拐し、爆薬や鉄砲の弾丸を無理やり造らせるという筋書きだ。僕が書きたかったのは全く違う。毎年夏になると全国各地で花火大会が行われる。子供たちも家庭で楽しむ。その花火を現実に作る職人達を主人公に、苦労、生き甲斐、喜びと悲しみの中に家族愛を軸に描こうというものだ。

 僕は企画書を書く前にその素材と描く趣旨について中尾、長沢両プロデューサーに口頭で説明し、何としても実現したい旨力説した。「確かに今迄取り上げてない世界だ。放映の時期を夏休み中に合わせられれば最高だが、進めよう」ということになった。僕は意気込んで手持ちの資料を駆使して企画書を書き上げた。結果中尾、長沢プロデューサーからはOKが出たが、讀売テレビ放送製作局次長待遇小泉勲氏から補足の提案がなされた。小泉氏は企画が決定すればこのドラマの演出を担当する人だと聞かされ、その立場からの意見だった。

 企画書にはどんな話になるのかを伝えるために“サンプル・ストーリー”を書く。僕は手持ちの資料から僕なりに最高と思えるエピソードを組み立て、ドラマ性を高めたつもりだったが、小泉氏には一抹の不安があったようだ。果たして、サンプル・ストーリーに書かれてあることが現実に起こるのか。ストーリーの展開上ご都合主義はないのか、という点だった。それは主人公のベテラン花火師が恒例の業界コンクールの優勝に夢を託し、通称“赤爆”と呼ばれる火薬を使用して試作する過程で、夫を気使う愛妻が事故死してしまうシチュエーションだった。

 数日後、長沢プロデューサーが取材の許可を取ってくれた銀座に本社のある小勝煙火店に行き、前もって送っておいた企画書とサンプル・ストーリーについて取材をかねて意見を聞いた。「確かに赤色火薬(赤爆)は危険なもので、昔は使われたが現代では使う花火師は居ない」という回答だった。僕は必死の思いで説明した。「花火に命を賭ける武骨で頑固なベテラン職人の意地と家族愛を描く上で、普通の火薬で妻が命を落としたのでは主人公の技量がなさすぎる。危険と承知で挑む姿と、夫を思って止めようとする妻の生き様を描きたく、ドラマの上の嘘になるかもしれないが是非使わせてほしい」と、無理やり飲み込んで頂いたというのが事実だった。サンプル・ストーリーには更に取材で得たエピソードなども書き加え、二、三度手を入れた後、ドラマ化が決定した。