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 お正月に今迄のコラムを読み返してみました。”ガンダム”の作業、放映が進みだしたところまで書きましたが、一つ、あることを忘れていたことに気がついたのです。それは”ガンダム”の作業にとりかかる少し前の話です。

 僕が”ガンダム”のライターの一員に決まったある日のこと、”はじめ人間ギャートルズ”(製作東京ムービー)のプロデューサー小野博之君が、台湾行きを誘いかけたのです。彼とサンライズのプロデューサー鶴見君とは親友で、鶴見君から僕を誘うように言われたのだそうです。「”ガンダム”を書くにあたって必ずプラスになるはずだから」と。

 ”ガンダム”の作業と台湾行きがどこで結びつくのか、皆目理解できなかった僕に、鶴見君が説明してくれました。「まだ日本では封切られていない”スターウォーズ”(ジョージルーカス監督作品)を観るためだよ」と。”スターウォーズ”。確かに予告宣伝では聞いていましたが、日本での封切り予定はまだ決まっていませんでした。おそらく“ガンダム”の放映が開始される頃になると思われ、今台湾で観ないと間に合わないと言うのです。さらに聞いてみると、台湾という国は世界の新作映画を一番早く取り入れて封切る国なんだそうです。確かに、日本での外国映画の輸入は、他国で話題になったり、興業収入が成果を挙げたという実績のある作品しか輸入しないため、他国より遅いことは知っていました。それに比べて台湾は、世界どこの国の映画でも輸入業者が面白いと判断すれば、作品の知名度がある無いに関わらず即輸入するのだそうだ。成る程と理解した僕は二つ返事で台湾行きを了解した。

 パスポートの申請などの準備を整え、小野田君、鶴見君、僕の三人は台湾に旅立った。台湾には日本からテレビアニメ作品の作画(セル画の作成)などを発注していたことから、僕を除く二人は渡航の経験があったが、初めての僕は着いた途端まずその暑さに驚いた。そしてもっと驚いたのは現地での食事のことだった。着いたのは現地時間で午後二時少し前。出迎えてくれたアニメ関係会社社長の案内で昼食を摂ったのだが、食べ終えたばかりなのに「夜は何が食べたいですか?」と聞かれたのです。お腹が一杯の僕はとても夜食など考えられませんでしたが、わずか四時間位しか経たない夕方の六時過ぎた頃、お腹がすいてきたのでびっくり。それほど暑く、エネルギーの消耗が激しいということでしょうか。

 問題の“スターウォーズ”の観賞は翌日の午後でした。当時の台湾では映画の興行が盛んで、自国製作の映画、輸入映画を上映する映画館が軒並み並んだ、いわゆる映画街が人で賑わっていました。映画館は全て一回上映ごとの総入れ替え制。それも毎回ほぼ満員というのだから繁盛ぶりがよく分かる。邦画の衰退が進み始めた日本の映画界と比べ羨ましいかぎりである。

 そして、目的の“スターウォーズ”が始まった。とたん、僕は「あっ」となった。スクリーンで俳優が話しているのは英語、そして写しだされる字幕は中国語(北京語)なのだ。ちょっと考えれば当たり前のことなのだが、僕は一瞬唖然となった。「これでは折角海を渡って観にきたのに、チンプンカンプンではないのか」と。こんなことなら英会話を学んで置けば良かったと、その時本気で思ったのも事実でした。でも、映画が進むうちその気持ちは何故か少しずつ薄らいでいきました。ストーリーは、さらわれた姫を救い出すという単純なもの。会話の内容は分からないものの、僕はいつしかスクリーンの中に引き込まれていったのです。それはストーリー展開の面白さが、画面を観ているだけで伝わってきたからにほかならない。しっかりした構成力のなせる技が、映像だけで観客を作品の世界に引きずり込んでいくのです。セリフによる説明が全く無くても、考え尽くされた映像、俳優の表情、演技力で充分意思は伝えられるのだ、という新しい発見ができたことは、僕にとって大きな収穫だったといえる。こうした構成力の大切さは、僕の今後のシナリオ作りに大いに役立てたいとおもった。