meijido_logo2b.png

title_column_araki.png

0016

 “ガンダム”の仕事に入った頃、僕は2、3本の仕事を抱えるようになった。それは人の繋がりの広がりからである。

 恩師故直居欣哉氏にはもう1人の弟子がいた。僕の姉弟子にあたる服部佳(本名佳子)女史だ。当時の邦画5社の内の1社日活㈱のスクリプター出身である。スクリプターとは映画やテレビ映画の撮影に欠かせない存在で、カットやシーンの撮影に要した時間の記録係りの  
こと。秒単位から分まで、本番でOKが出るたびに所要タイムを記録し、全てを合計して最終的に作品んの仕上がり時間を調整する役目である。

 これが想像以上に大変な仕事だが、監督や助監督、大道具、小道具係りに混じり、何故か現場では紅一点の女性の仕事だった。そのせいか言葉使いから行動力まで、男性に勝るとも劣らない立ち居振る舞いをしていた。それが、一度現場を離れたら普通の女性となんら替わらない女らしさを備えているのだから、面白いと言えば面白いといえる。もっとも、中には文字通りの男勝りの人もいたことはいた。

 当時、このスクリプター出身でシナリオライターに転向していく女性がかなり居た。服部女史もその一人である。最初の頃それが何故だか分からなかったが、後で聞かされなるほどと納得したものである。一言でいえば、スクリプターで積み重ねた経験がシナリオというものを知り尽くすために恰好な教材になるといえるかもしれない。秒単位、分単位でシナリオを分解し、全体のタイムが長くなりそうだと監督と相談してどのセリフを縮めるか、どのシーンを削るかと考える訳だから、シナリオの構築には人一倍敏感にならざるをえない。このことが、シナリオの本質を学ぶ上で大いに役に立つということだ。

 僕が服部女史の紹介でした仕事は、いわゆるナマ放送のドラマだった。今でこそ、フィルムやビデオ撮りして放映するのが当たり前になっているが、当時はナマ放送の連続ドラマがかなり多かった。そのドラマは、1時間枠一話完結の連続ドラマ“花子ちゃん”。美空ひばり、雪村いずみと共に三人娘(初代)と呼ばれた江利チエミが主演のホームドラマである。大衆的な小料理屋を舞台に、明るく人のいい、ちょっとドジなところのある娘(江利チエミ)を中心に、まだ若かった山田吾一扮する板前や近所の人たちが織りなす、コミカルで人情味豊かなホームドラマ。

 確か2クールの放映予定で服部女史が一人で脚本を担当していたが、ハードスケジュールの中で体調を崩したため、僕が1,2本、回復するまでのピンチヒッターということになったのだ。ところが、いざ引き受けたもののこの作業は僕の予想をはるかに超えて、大変なものとなった。

 一般的に、フィルムなどに撮影される脚本の場合の打ち合わせは、担当プロデューサーと監督、ライターの三者会議がほとんどだが、ナマ放映のドラマでは全く違っていた。前二者に加え、その回の出演者全員が一堂に顔を揃えるのだ。そして本読み(セリフの読み合わせ)から時には立ち稽古までつき合わされ、セリフやト書き、シーンの内容まで、役者さんの意見も聞かされる。そして監督も同意すれば、ライターはその場で直させられるのだ。

 役者さんがその場で直したセリフを、咄嗟に聞き漏らさず書き留めなければならない。一流の脚本家なら直しも少なく、監督にしても無理な注文はつけないようだが、僕など経験も実績も少なく、ネイムバリューも無い者には遠慮なく攻撃してくる。そういう世界でもあり、まさにタジタジだった。その上、撮影するのでなくその時限りのナマ放映だから、スタジオの広さに応じて許されるセットの数にも制限があった。話を組み立て、構成を考えるにも、シーンやセットが限られてしまうことになる。顔から火が出るほどの思いだったが、体調の悪い中一緒に立ち会いエスケープしてくれた服部女史に心から頭がさがった。とはいえ、今後の仕事に大いに役立つ体験だったことはいうまでもない。