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 本棚を整理していたら、以前書いた脚本でちょっと気になる本が出てきた。そこで、今回はその仕事との出会いについて書き留めておきたいと思う。ある日、大学時代から僕たち5人の仲間の1人で、映画製作会社東宝の重役を父に持つ小林理君から連絡を貰った。久しぶりに有志で飲み会をやろうというものだった。お互い30代も半ばになっていたが、“リー坊“の愛称で親しまれた彼のイメージは変わっていなかった。懐かしさに旧交を温め、会が大いに盛り上がったことはいうまでもない。小林君が東宝テレビ映画部でプロデューサーをしていることを知ったのもこの時だった。

 僕がシナリオライターになっていることを知った小林君が仕事の誘いをかけてくれたのは、それから1週間程経ってからのこと。連続テレビ映画“祭りばやしが聞こえる“の脚本執筆だった。番組はすでに放映を開始していて途中参加になるが、1時間枠で1話完結の連続形式だから問題はないという。彼はもう1人のプロデューサー清水欣也氏とコンビで、この番組の制作を担当していた。

 余談になるが、初めて清水氏を紹介された時、「彼の愛称はシミキン、楽しいヤツさ」と小林君から聞かされた。理由は簡単で、エノケン(榎本健一)と並んで一世を風靡したコメディアン“シミキン“こと清水欣一になぞらえたもの。小林君とは相性のいい名コンビで何本か一緒に番組を作ってきたそうだが、確かに、僕の知る人のいい小林君とは馬が合いそうな人柄だという印象を受けた。

 番組は、地方を巡業して回るプロの競輪選手の生き様を描いたドラマで、主演は正健こと萩原健一。石田あゆみ演じる妹と2人で暮らしている設定。巡業で地方を回る日の方が多い兄と、留守をしっかりまもりながらも、一途で突っ走り勝ちな兄の健康を気使い、心安まる日の少ない妹。ひょうひょうとした正健の持ち味を故室田日出男をはじめひと癖もふた癖もある個性豊かなバイプレイヤーが脇をガッチリかためた、派手なアクションも無い素朴で渋味のある温かい作品であることが、放映済みの台本を数冊読ませてもらって受け取れた。

 この時僕は、競輪とその業界のことについては全く何の知識も無かったが、作品自体には何故か心惹かれるものがあった。2,3日時間を貰い、競輪に関する雑誌や本などを買い集めて目を通した。「別に競輪そのものを深く掘り下げて描く訳ではないし、ましてギャンブルとしてとりあげるわけでもなく、1つの職業としての競輪に人生を賭けた男の生きざまと、妹との兄弟愛、彼らを取り巻く温かい人間愛を描くのだから心配ないさ」と小林、清水両プロデユーサーから言われ、参加させて貰うことになった。

 ライターチームには確か石堂淑朗氏等大御所の方たちが顔を揃えていた中で、まだ新参者の、それも途中参加の立場だった僕だが、それでも結果的には3話ほど書かせて貰ったと記憶している。監督も工藤栄一氏等そうそうたる顔ぶれで、シナリオの直しに対する意見や指摘も厳しく的確だった。この時の体験は僕にとっては凄く大切で後に大きく影響を与える、価値の高い貴重なものとなった。ちなみに、この作品のシリーズは放映終了後1年程してノベライズの本になって出版されている。

 ここで改めて振り返ってみると、殺伐とした、心温まる人間関係の希薄な現代こそ、「人と人との心の触れ合いの大切さ」を描いた“祭りばやしがきこえる”や人と自然と動物のバランスのとれた関係を描いた、園山俊二原作“はじめ人間ギャートルズ”のような作品をメディアがもっともっと取り上げるべきではないだろうかと、つくづく思わされる。