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 東京ムービー社の小野田君が、僕とサンライズ社の橋渡し役となったのは、彼の友人、というか、いわゆる酒飲み友達がサンライズ社にいたからである。名前は鶴見君。サンライズ社の若手プロデューサーだ。

 小野田君と鶴見君がよく飲みに行ってた店は、新宿駅東口前にある“キャット”というジャズを専門に聴かせる店だった。と言っても生演奏ではない。ビルの地下1階にあるうなぎの寝床のような所で、ジャズマニアのマスターが一人で切り盛り。客はカウンターの前で立ち飲みといったあんばい。

 驚いたのは店内の前後の壁際、天井まで所狭しと作られた棚にギッシリ収められているレコード版のジャズ。デキシーからカントリーはもちろん、千枚を軽く超える曲を全て頭に入れているのか、客のリクエストにも瞬時に選んで掛けてくれるマスターの凄腕だ。飲み物はウイスキー主体で、つまみは乾き物と即席ポップコーン。ただ一つの変わり種、輸入物のオイルサーディンの缶詰めは絶品だった。僕も何度か連れて行ってもらい、映画やシナリオについて大いに語り合ったものだ。数年前に思いだして行ってみたが、“キャット”はもう無かった。

 当時サンライズ社で鶴見君が担当していたのが、“無敵鋼人ザンボット3”で、僕はこの作品からサンライズ社で仕事をさせてもらえることになったのだ。アニメ界でも名高き鈴木良武氏がライター陣のリーダーで、僕は初めて、いわゆる“ロボット物”と呼ばれる仕事と関わることになったわけだ。親子から孫まで総出の“神ファミリー”を主人公にした大舞台の作品で、これが終了後に出合ったのが、“機動戦士ガンダム”である。

 “ザンボット3”が終了して“ガンダム”に入る迄少し期間が空き、その間僕は東京ムービー社製作の“新・巨人の星”の仕事に加えてもらった。かつて一世を風靡した、いわゆる“スポ根もの”(スポーツ根性)の代名詞ともいえる作品の続編で、原作者梶原一騎氏が週刊讀売に連載を開始したのを機にテレビ化することになったのだが、これが予想以上に大変な作業になるとは、当初誰も気付かなかった。

 その最大のポイントは、主人公の星飛雄馬の設定が少年から青年になっていたことだった。当然の如く、父星一徹の厳しい指導による特訓は無く、身を挺して歯をくいしばって堪える少年星飛雄馬の姿もない。しかも当の飛雄馬はすでに讀売巨人軍の選手なのだ。設定も舞台もまさに現実すぎるわけ。
 加えて、かつてファンを唸らせた“魔球”も使えないと気がついた。何故なら、その時ビデオテープが普及していて“スロー再生でもう一度”見られる現実がドッカリ立ちはだかっていたからである。

 でもスタッフは智恵を絞り、何とか新しい時代の新しい魔球が作れないものか(新連載の原作には魔球の “魔”の字も登場しない)考えた。結局無理だろうと諦めかけた時、僕がある科学の本を見て思いついた事を提案してみた。ジェット機が超高速で通過する時の衝撃波で人家の窓ガラスも割れるという“ソニックブーム”現象を応用したものである。
 その“魔球”を完成させる迄の飛雄馬の特訓を、ビデオのスロー再生に堪え得る映像で描かなければならない。考えた末、板の上に一列に並べたロウソクの炎を二つおきにジグザグに消したり、堰き止めた小川の流れの1カ所の小さな出口から球を通過させたりと、飛雄馬の技?を映像で組み立てた。結果、30分枠前後編として仕上げ、放映した。理屈は通せたものの、成果については完全に満足とは言い切れなかった。